2026 SPRING SUMMER COLLECTION

10年にわたって積み重ねてきた創作手法の再検討。
KEISUKEYOSHIDAの2026SSコレクションは、デザイナー自らを省察するように、その方法論に対峙する姿勢と心境に必然的な変化が生じていった。
「これまでは過去の個人的な物語から浮かび上がる社会への眼差しを起点としていましたが、いまは眼前に広がる現実を直視することが必要だと気が付きました」
資本主義の爛熟と過剰な情報化によって引き起こされる感性の鈍化、あるいはソーシャルプレッシャーへの絶え間のない曝露。
緊張感の充満する現代。
その都市空間において自立して生きる人の姿と、それでもなお張り詰めた気が緩み、綻び、たわむ刹那に意図せず零れ落ちてしまう疲弊感や素顔。
そうした表情に人間的な美しさを見出した吉田は、都市生活者が纏う硬質な空気とその間隙に揺蕩う生々しさや柔らかさをモダニティとして捉え、造形としてとどめおくことを試みていく。
襟と身返しを解いてずらし、襟を膨らませ、崩すことで、身頃が密やかに泳いでいく。
身返しや台襟が捲れ露わになることでチェスターコートに見紛うステンカラーコート。
萎びて崩れ落ちた襟のテーラードジャケットやデニムジャケット。
身返しを歪ませながら奥側へと引き込むことで身頃が流れるショートトレンチやミリタリージャケット、フーデッドブルゾン、シャツ。
ネックラインがパンツウエストのディテールに置き換えられたジャケットやスリーブレストップス。
身頃や袖を回転させながら捻り出し、不規則なドレープが生まれたシフォンのロングドレス。
なだらかに波打つラインが、旧来の造形を変質させていく。
ポケットの袋布が捲れ上がりウエストから吹き上がって見える仕様のデニムやトラウザーズ、タイトスカート等は、袋布が引き上げられることで腰回りにドレープが生まれて布地が脚に貼りつく。
無意識で服を着た際に稀に起こる気の緩みや不精によって、却って厳格なシルエットが召喚された。
さらに、吉田が心の奥で数年来コラボレーションを熱望してきたTom Tosseyn(トム・トッセン)によるグラフィックが密やかな刺繍で散りばめられ、日々の勤労において繰り返される緊張と緩和の狭間に生じる浮遊感を添える。
硬い装いこそが、人間的な柔らかさを浮き彫りにするパラドックスなのだろうか。
都市生活に違和感なく宥和する衣服に少しの隙を含ませる。
冗漫なデザインではなく、ふと吐く溜め息のように、僅かな仕立ての余白によって語りうること。
さらにショーにおいては、特異なリアリズムから生み出されたコレクションに、クラフトワークによるステイトメントが加わった。
折編笠の伝統的なシェイプをデフォルメした黒塗りのハットは、異様なまでに顔を覆い隠して都市における匿名性と自己防衛のイメージを形成し、近年の詩的象徴でもあるアイウェアは、内向性と厳格さのイコンとして機能する。
抹消にまでディシプリンの浸透した現代社会とKEISUKEYOSHIDAとの接点の模索は、安易なリアリズムの追求にとどまらず、“エフォートレス”や“ウェルネス”といった今日的かつ個人的な観念の再考への広がりを含み持っている。












